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今季のオペラについて
バカンスが明け、学校もスポーツリーグも一斉に新季始動。わが国と季節は違えど、来る一年への期待感は万国共通ですね。1956年創設の「ラインドイツオペラ(Deutsche Oper am Rhein)」もいよいよ8月20日開幕。日本で敷居の高いオペラも、デュッセルドルフならまるで映画館に立ち寄るような気軽さ。美声とアリアの洪水に陶然、悲劇の主人公に落涙、そしていつしか貴方もオペラハウスの常連に!(深澤篤史)
日本クラブ・オペラ鑑賞会(文化部)
日本語舞台解説が大好評の鑑賞会。今季は大人向け2演目と子供向け2演目を予定。まずはイタリア・ベルカントオペラの代表格ドニゼッティのオペラ・ブッファ(18~19世紀初めにイタリアで栄えた喜歌劇)『愛の妙薬(L’elisir d’amore)』(9月24日、写真)。
18世紀イタリアで花開いたベルカント(bel canto=美しき歌)唱法を、19世紀初頭ロッシーニ、ドニゼッティ、ベッリーニが集大成したベルカントオペラ。美しく柔らかな響きと高い技巧を存分に楽しめます。純愛青年ネモリーノが切々と歌う「ひそかな涙が(Una furtiva lagrima)」は、パバロッティら名テナーの歌唱で耳にしたことがあるはず。ちょっと澄ました村娘アディーナ(リリック・コロラトゥーラソプラノ=動きが軽やかで広い音域、透明感あふれる歌声)が青年の真情に気づいて歌い上げる「お取りなさい、私のおかげであなたは自由よ(Prendi, per me sei libero)」、インチキ惚れ薬を売りつけるトリックスター、ドゥルカマーラ(バッソ・ブッフォ=コミカルな役柄を得意とするバス)の香具師口上など見所聴き所満載。
大人向けにもう一作は、ご存知『フィガロの結婚』(2023年4月1日)。ファゴットと弦がユニゾンで序曲を低く囁き始めるとあとはもう、煌めくモーツァルトの魔法に時の経つのも忘れ…。スザンナにはイスラエルの新鋭シーラ・パチョルニク(リリック・ソプラノ=柔らかで豊かな響きを持つ)が客演。ズボン役(男装の女性歌手)の代名詞ケルビーノは当歌劇場期待の星、地元出身のメゾソプラノ、ヴァレリー・アイクホフ。最高の「恋とはどんなものなのか(Voi che sapete che cosa è amor)」が聴けること請け合い!
子供向けには11月12日『獅子の騎士イヴァイン(Iwein Löwenritter)』、23年1月13日に『ヘンゼルとグレーテル』。前者はデュッセルドルフとボン、ドルトムント3歌劇場の共作で今年1月に初演されたばかり。中世の騎士物語に材をとった児童書にドイツ人モーリツ・エガートが作曲。同時代の作品にいち早く触れる貴重な機会でもあります。一方、ヴァーグナーの弟子フンパーディンク作曲の後者(1893年初演)は、メルヘンオペラの代表作でクリスマス休暇の定番。ヘンゼル(これもズボン役)を歌うドイツ人メゾソプラノ、キンバリー・ボットガー=ゾラーは、ピアニストのゴウ芽里沙とのデュオで2017年に日本ツアー。どちらのオペラも、子供心と高い音楽性を兼ね備え親子で愉しめます。
その他の注目の舞台
今シーズンのクライマックスはベッリーニの『夢遊病の女(La sonnambula)』(2/26プレミア=新演出の初日。全6公演)。『ノルマ』と並ぶベッリーニの代表作で、カラスの十八番。今回そのアミーナ役を託されるのがラインドイツオペラの華、ルーマニア人ソプラノのアデラ・ザハリア。昨季はヴェルディ『椿姫』のヴィオレッタ役で、同郷のゲオルギューを彷彿させる存在感をアピール。磨き抜かれ、陰影に富んだ深い歌声は、いわゆるドラマティック・コロラトゥーラソプラノ(リリック・コロラトゥーラより豊かな声量で高貴な性格)の枠を超越し、「最も完成されたソプラノ」と称するに相応しい。去る4月にはウィーン楽友協会大ホールにて、佐渡裕指揮トーンキュンストラー管弦楽団とマーラーの交響曲第4番を共演。今季も各地で客演をこなしながら、当歌劇場のアンサンブル(ドイツの主要歌劇場の特長である専属契約歌手の一団。シーズンを通して演目ごとに、アンサンブルに属する歌手を組合せ配役)の一員として、至高の歌唱を披露してくれます。ザハリア出演は他に、ドニゼッティ『ランメルモールのルチア』(ルチア、8/21・24・27、デュイスブルク劇場)、モーツァルト『ドン・ジョヴァンニ』(ドンナ・アンナ、12/13・22)。
ベルカントオペラがお気に召した向きに、ドニゼッティの『ドン・パスクアーレ』もぜひ(1/7より)。『愛の妙薬』と並ぶブッファの傑作。演出はスターテナーのビジャソン! ヒロインのノリーナはドイツのソプラノ、ラヴィニア・ダーメスとスペイン人エレーナ・サンチョ・ペレグが4公演ずつ。
イタリアオペラではこのほか、ヴェルディが『マクベス』(9/4プレミア)と『ファルスタッフ』(9/30より)。プッチーニは『トスカ』(10/28より)、『トゥーランドット』(3/23より)、『蝶々夫人』(5/5より)と豪華三本立て。対するドイツ勢はヴァーグナーの『さまよえるオランダ人』(10/2プレミア、デュイスブルク劇場)と『ジークフリート』
(2/5より)。再評価著しいコルンゴルトの『死の都(Die tote Stadt)』
(4/22プレミア)は、米国の鬼才ダニエル・クレイマーの新演出。仏人マスネの『エロディアード (Hérodiade)』(5/27プレミア)では、ジャン役で客演するイタリア人テノール、リッカルド・マッシに注目。
広報のタニア・ブリルさんより
過去2シーズンはコロナ禍で多くの公演がキャンセルされ、収容人数制限やマスク着用など様々なご不便をおかけした。常態復帰の今季は、アンサンブル制の長所を最大限に活かし、新演出と再演合せて多彩な
25演目を用意。『マクベス』のような記念碑的舞台の幕を開けることが出来るのは大きな喜び(当初のプレミア予定は2020年6月)。発足当初からデュイスブルク市と共同で運営。入場無料の『オープンエアー・オペラガラ』(9/2、デュイスブルク劇場前広場)や世界初演の『飛ぶ教室』(5/14プレミア、デュイスブルク劇場)にもぜひお出掛けを。またデュッセルドルフ歌劇場は「ライン・バレエ団」も本拠とする。芸術監督3シーズン目のデミス・ボルピは昨季『くるみ割り人形』が絶賛を浴びた。古典とモダンの絶妙な融合で、客席とダンサーの厚い支持を得ている。
▶ホームページ https://www.operamrhein.de/en/
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