耳よりコーナー生活編

ドイツワイナリーから学ぶ世代交代とさらなる発展

●ドイツワインは甘い?


読者の中には「マドンナ」と呼ばれるかつて日本へ大量輸出され、当時はトレンディであったドイツワインを口にしていた方がいるかもしれない。ネーミングからして、時代を感じさせるワインだが、高度成長期に成人していた方たちは、当時の甘い思い出とともに記憶に残っているはずだ。そんなドイツワインだが、半辛口も含むと7割が辛口なのが現状だ。逆を言えば3割しか甘口ワインは造られていない。ワインをペアリングするとかマリアージュするという言葉がそこかしこに流布しているように、現在はドイツでも日本でも食事に合わせてワインを楽しむという文化が少しずつ根付き始めている。私は『ドイツワイン再発見』という和食とペアリングしながらドイツワインを楽しむための手引書を昨年末に出版するに至ったのだが、執筆に際し、いくつものワイナリーを取材する機会を得た。その中で、このドイツワインに変化をもたらした背景には、少なからず「ワイナリー経営者の世代交代」が関係しているのではないかと思うに至った。なぜなら、勢いのあるいくつものワイナリーは共通して、経営者の世代交代があったからである。

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●ワイナリーの世代交代

2022年4月にベルリンで行われた35歳以下のワイナリー経営者たちのワインコンテストで見事一等賞を獲得したWeingut Bernard Kochでは、世代交代によって大々的な改革が進められている。ここ数年で醸造所の増設とリノベーションで近代化を図り、今年は新しいヴィノテーク(醸造所に併設された試飲室)をオープンさせたばかり。現在は息子のアレックスとコンスタンティン兄弟が後継者としてワイナリー経営を担っている。次男コンスタンティンはワイナリーで働きながら、経済学・マネージメントを学ぶ。最近では新しいヴィノテークで和食とのペアリングイベントも開催し、どんどん新しいことに挑戦しているワイナリーだ。先代はその辺をうろうろしながら見守りに徹している。

また、世代交代によってワインの質も知名度もさらに向上させているワイナリーのひとつにSekthaus Raumlandが挙げられる。1代で築き上げた一流ゼクト(ドイツのスパークリングワイン)メーカーで、創業者であるフォルカー・ラウムランド氏が40年に渡り経営をしてきた。2021年に娘マリーとカタリーナが父親からワイナリーを引き継ぎ、今までのエチケットやホームページを一新。伝統的なイメージのあったエチケットが重厚感はそのままに、スタイリッシュなものに生まれ変わった。次女カタリーナは、シャンパーニュ地方の修行から戻り、新しい知識と経験で長女マリーとともにワイナリーを経営する。2021年にゼクト部門のVDP加盟ワイナリーとなったラウムランド社は、世代交代を経てさらに知名度をあげている。Weingut Heesも、ちょうど世代交代によって勢いを増しているワイナリーのひとつだ。9代目となるマルクスは、90年代に深刻化した地元のぶどう農家の後継者問題を解決すべく、近所のぶどう畑を買取り、自分でしかできない味を追求している。さらに2021年からナチュラルワインにも挑戦し、ペットナットやリースリング、ヴァイスブルグンダーの無濾過ワインの販売も始め、マルクスはワイン専門家からも定評を博す新鋭の若手醸造家である。そんな若い世代の活躍は、老舗で超大手の修道院ワイナリーであるKloster Eberbachでも後押しされている。ワイン造りに熱意のある若者たちが自分たちのワインを造り、販売までサポートするプロジェクトを試みている。このように世代交代によってワイナリーを経営する若い世代が台頭し、独特の感覚とオリジナリティの追求によってドイツワインはどんどん変わってきている。こうやって保守的と思われるワイナリーでも新陳代謝が促されていることが実感できた。

●進化したドイツワインを飲んでみよう!

こうやってみてみると、世代交代によってのびのびと若い世代が新たなことに挑戦し、鮮やかな風を取り入れる素地を作れていることが、ドイツワイナリー延いてはドイツワイン業界の成長の一要因となっているのだろう。彼らの新しい発想や行動力も一躍かって、「ドイツワインは甘い」というかつての偏見も払拭されつつある。かつてドイツでは食後の団欒に飲む傾向にあったそうだが、食事中にワインを楽しむという飲み方にも変化しつつある。そんな勢いのあるドイツワイン。ドイツワインは甘いという偏見を捨てて、今すぐに楽しんで頂きたい。「つまらないワインを飲むには、人生はあまりにも短すぎる」と人生の大先輩であるゲーテの言葉は言い得て妙である。ゲーテの言う「つまらないワイン」の意味を噛み締めながら、大好きな仲間とわいわいドイツワインを飲もう!

吉澤 寿子
『ドイツワインの再発見』を島田信吾氏と共著で執筆。
ドイツの子育てサイト「りんごの木」管理人。
Researching Plus GmbH代表。

S11 untenrechts緯度50度が抜けるラインガウの葡萄畑はリースリング栽培に最適な条件が揃う。
(Schloss Johannisberg)