もっと知りたい、伝えたい。

俳句コンクール

 

第2回俳句コンクールを実施した。
今回はクリスマス、年始年末の楽しい行事、長引くコロナ禍の生活の息苦しさなどの俳句を日本クラブ会員・賛助団体の方々から募り、30作品が集まった。昨年の第1回Zoom講演会「日本文化の季節感と喪失の明るさについて」の講演者、愛媛大学准教授・青木亮人先生に今回も選句いただいた。(文化部:Y.K.)

「皆様の応募俳句を読んで」
Ⅰ. 興味深かったお二方の作品

俳句の詠み方は様々ありますが、独特の表現方法があります。それは自分が最も伝えたいことや感じてほしいことをあえて表現せず、読者に無言で感じてもらうように言葉を整える、というものです。
劇団員梅子さんの作品を見てみましょう。

"グリューワイン香る市場の冬夕焼"

クリスマスのマルクトの一情景でしょうか。市場を歩いているとあちこちの屋台や人々のカップから漂うグリューワインの香りが広がっており、その香りがクリスマスシーズンの到来を実感させ、また確認する。
時は折しも夕暮れ、沈みつつある太陽が冬の寒々しい空を赤く染め上げ、マルクトに居並ぶ屋台の電灯が少しずつ明るさを増すようにも感じられる。ドイツの冬のモノトーンめいた日々の中、夕焼けに染まる冬空の薄紅色と、グリューワインの赤い色合いが寒さの中の温もりをほのかに感じさせるかのようです。クリスマスシーズンになり、冬の寒さに閉ざされた街が彩りを戻し、華やぐひとときを視覚と嗅覚双方から感じているのかもしれません。

梅子さんの句はこれらのことを直接は述べず、ただ「グリューワインが香る市場」と「冬の空は夕焼け」という状況だけを黙って指さし、読者に上記のような風情を想像してもらうように詠んでいます。"アクリル板越しのサンタのひげの白" "シュトレンとほうじ茶ラテの昼下がり"等、梅子さんの他の作品も俳句独特の表現が活きていると思います。

また、梅子さんとは別の意味で、陸奥こあらさんの作品も興味深い俳句に感じました。

"空爆ビルより寒雀あをぞらへ"

ベオグラードに遺るNATO空爆のビルでしょうか。壁面が崩落したままのビルから、冬の「寒雀」が青々とした空へ飛んでいった。冬の丸々とした雀はあちこちにいますが、他ならぬ「空爆ビル」から冬の雀が飛び立ったことに目を留めたのは、やはりその場に行き、ビルを実際に眺めなければ体験できない出来事であり、その実感を伝えたいために作者は「空爆ビル」と具体的に詠んだのでしょう。
陸奥さんの他の作品、"深雪晴ミサみな距離とり立ち尽くし" "サラエヴォ晴れてベオグラードは霙かな"も興味深い。作者がまさにその場で実感し、目に飛びこんできた情景を驚きとともに臨場感豊かに詠んでいるように感じられます。


Ⅱ. 皆さんの作品について

以下、皆さんの各句を寸評してみました。

・"みすずかる信濃の雑煮海を越ゆ" 沓掛理絵子さん
「みすずかる」は、万葉集の時代より信濃国の枕詞として歌われた言葉です。郷里の長野のお雑煮をドイツでいただいているのでしょうか。

「海を越ゆ」という表現が、「みすずかる信濃」という古代以来の表現と響きあっています。

・"霜柱かじかむ靴で踏んでみる" ふじさんさん
朝か、午前の情景でしょうか。靴底から寒さが足に伝わるような冬のさ中、ふと好奇心のような興味が湧いて霜柱を踏んでみた、という感じでしょうか。

・"ダルカレー ココナッツカレー ジャワカレー" 本田夢望さん
スパイス料理でいえばカリーヴルストも美味しいですよね。

・"ワクチンの効果祈念しクリスマス" 熊太郎さん
ワクチン接種の効果を信じながらクリスマスに団らんのひとときを過ごす、という感じでしょうか。作品には微かに不安な心情が漂っており、昨今の事情を物語るかのようです。

・"寒空に肩を寄せ合う羊かな" 深沢一茶さん
羊の群れの実際の風景かもしれませんし、また街の人々を「羊」と比喩的に表現したのかもしれません。個人的には、実際に羊が群れをなして歩んでいる情景とした方が面白く感じられます。

・"ルッコラでなんとかなるかと七草粥" 海外あるあるさん
七種類全てを揃えることはできなかった、一つはルッコラで代用しよう、七種あれば「七草粥」として成り立つだろう……といった感じでしょうか。手に入れられなかったのは何だったのでしょうか。ごぎょうか、ほとけのざあたりだったのかも。

・"脇腹についたお肉はシュトーレン" 食いしん坊さん
脇腹についた贅肉はなかなか取れませんので、ご自愛下さい。

・"元旦にドイツで食べるお餅かな" ホームシックさん
この句は、「ホームシック」という俳号(俳句を詠む時のペンネームです)と一緒に味読したいところ。確かにお餅は日本の生活を懐かしく思い出させてくれる食べ物ですが、美味しさと懐かしさのあまりに飲みこんで喉を詰まらせないようにご留意下さい。

・"ロウソクとオーフンの火アドベント" RYさん
「オーフン」は「オーブン」でしょうか。蝋燭、オーブン、アドベントカレンダー……ドイツのすてきな12月の過ごし方ですね。

・"9万円の高級御節 プレゼント故 味覚視覚の増加なり" Sei Bartschさん
9万円(!)のおせちとは凄い。どんな料理や見栄えだったのでしょうか。「味覚視覚の増加なり」という表現が面白いですね。

・"釣銭を「違う」と言えず冬の市場(マルクト)" 香嵐さん
足りなかったのでしょうか、多かったのでしょうか。足りないとしても少額のことゆえ、あえて言うほどのことでもないか……等々、「冬の市場」の華やいだ雰囲気の中、微妙に葛藤しているところが俳句作品としては面白いですね。