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デュッセルドルフ大学現代日本学科

教授 島田 信吾

S8

デュッセルドルフ大学はデュッセルドルフ出身の詩人にちなみハインリッヒ・ハイネ大学と名付けられている。市内からは約10Km南に下ったところに所在し、あまり馴染みのないと思われている方も多いかと思われる。しかしこの大学には1985年以来現代日本研究所が存在し、現代日本の文化と社会についての研究と教育が行われている。当初は副専攻コースしかなかったが、その後順々と発展し、現在はドイツ最大の規模を持つ日本研究所となっている。

私は2005年に当研究所に社会科学系の教授として赴任してきたが、当時を思い出せば、かけ隔たってしまった世界だったという感が拭えない。当時はほとんどの学生がそれまでのMagisterと呼ばれたドイツ特有の修士コースに属しており、5年から10年以上在籍している、いわゆる超長期学生なども結構存在した。学生の管理なども今に比べれば大変緩やかなもので、ドイツの大学特有の、学生の自主性を重んじる、いわゆるフンボルト理念が濃く残っていたとも言えるだろう。2000年になった頃、全ドイツで大々的な大学改革が行われ、ヨーロッパ全体の大学機構に対応できるよう、Magister制度が廃止され、学士コース(BA)が導入され始めていた。現代日本学科でも、2001年にはそれが導入されてはいたのだが、まだ学生数も少なく、システムとして機能していなかった。その後2006年に新しい修士コース(MA)が導入され、現在に至る学科の全体システムが出来上がった。というわけでこの学科もドイツの大学のこの20年間における大きな変容とともに発展していき、学内で確固とした地位を築くことができたと言えるだろう。

さて、この現代日本学科は3年間からなる学士コース(BA)、2年間からなる修士コース(MA)、 そして約3年間の博士コース(Dr. Phil)からなっており、現在約700人の学生が日本語を学び、日本の文化ならび社会についての教育を受け、そしてまた研究を行っている。教えているのは5人の教授と11人の研究員、そして2人の日本語教員である。このスタッフで700人の教育、特に日本語授業を行う負担は軽いとは言えないだろう。他の大学のいわゆる日本学が伝統的な文化に重点を置くことが多いのに対し、デュッセルドルフ大学では現代日本の研究に重点が置かれている。これも、デュッセルドルフという立地と強く関係している。多くの卒業生がデュッセルドルフの日本企業や日本と関係の深いドイツ企業に就職しており、OB, OG 層は年々厚くなりつつある。ちなみに日本クラブのハッヘンベルクさんも卒業生の一人である。

研究テーマとしてはジェンダーとナショナリズム、日本企業におけるヒューマン・リソース問題、高齢化及び少子化社会、またデュッセルドルフにおける日本社会の形成など多岐に渡っており、授業もそうした多様な観点から見た日本文化と社会といったものが多く、それも学生にとっての魅力となっている。またポピュラーカルチャーについての関心ももちろん大変高くゲーミング・スタディーズやテレビドラマ分析なども、研究プロジェクトとして実践されている。

学生たちは最初の2年間は毎週10時間日本語を学び、毎学期通算4回の筆記試験に通らないと上級に上がることができない。この試験がゆえにこの学科は一般に厳しい学科とみられている。日本語の上達のためにはやはり日本の大学に留学する必要があるが、現代日本学科は東京大学、千葉大学、慶応大学、南山大学、大阪大学から琉球大学に至るまで20以上の日本の大学と交換留学制度を保持しており、多くの学生がこの制度を利用して1年間日本に滞在し、日本語を学び、また卒業論文のための研究を行っている。1年間日本に滞在した学生は日本語が見違えるように上手になり、滞在経験を通じて問題意識も一層深めて帰ってくる。当学科にとって交換留学は当然ながら、大変重要な価値を持っていると言えるだろう。

日本の学生と比べての大きな違いは、多くの学生が高校卒業後Freiwilliges Soziales Jahr、つまり自由意志での社会奉仕という制度を利用し1年間社会で奉仕をするという点であろう。この制度で日本に滞在し、介護施設や障害者施設で奉仕活動を行い、その後、大学で勉強するという学生が何人もいる。彼らの場合、日本語能力ならび社会問題意識が大変高く、研究への意欲も盛んである。この奉仕活動はドイツ社会における一般のボランティア活動として重要な意味を持っており、ドイツの福祉制度を理解するにも重要な制度である。

また当学科には学生の運営する着物クラブがあるが、着物の着付けや着物の知識についての活動を行っている。このクラブは日本クラブとも交流関係が長く、この点では強い接点がある。上記のように日本語を学ぶ学生数も多く、実践を望む学生も多くいるため、日本語ディスカッション・サークルなど、日本語の実践を伴う交流活動などこれから広めていければと思っている。