耳よりコ-ナ-生活編

ドイツのブルワリーが手掛けるFassbrause(樽ソーダ)を飲んだことはありますか?

キリンヨーロッパ 社長 土屋 義徳

ドイツでは100万人以上がアルコール依存症と診断されております。飲酒を始める初期の時点で、悪癖がつかぬよう若者への飲酒に関する注意も呼びかけられており、社会的にアルコール問題に対する懸念は高まっています。世界保健機関(WHO)もがんや糖尿病などの疾患リスク要因としてアルコールの“有害な”摂取を挙げ「“有害な”飲酒を少なくとも10%は削減する」との目標を加盟国に提示しています。さらには、15年に国連で採択されたSDGs(持続的な開発目標)でも、アルコールの“有害な”摂取の防止が目標の一つに盛り込まれました。
そのような時勢を反映してか、ドイツの厚労省のアンケートによると、ドイツの青少年による飲酒は年々減少しており、一週間に一度飲酒しているのは、約10%で、2000年初頭は、20%台であったことを考えると半減しています。また、初めてお酒を飲み始める年齢も上昇していて、2016年ではドイツで公共の場でアルコール摂取が認められる16歳にまで上がりました(当然と言えば当然ですが...)。
このようなことを背景に、ヨーロッパのみならずビールの本場であるドイツのビール市場も、残念ながら、日本同様にその総ボリュームは漸減傾向にあります。一方で、健康志向や社会派を意識したノンアルコールビールは大きな成長が見込まれるカテゴリーとなっています。直近では、ヨーロッパ最大のフットボールイベント、チャンピオンズリーグやEURO2020のスポンサーであるHeinekenが、スタジアムでの広告にノンアルコールビールブランドを投入し大々的なPRプロモーションを展開しました。もちろん、ドイツの大手ブルワリー各社も「ヘルシー」「ナチュラル」をキーワードにしたソフトドリンク分野に注力しはじめています。今回、ノンアルコールビールをはじめ、様々な取り組みの中でブルワリーが手掛けるドイツならではのソフトドリンク、Fassbrause(ファス ブラウゼ/樽ソーダ) をご紹介したいと思います。日本式で表現すると「ノンアルコール麦芽炭酸飲料」と言った感じでしょうか。

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*チャンピオンズリーグ ハイネケン

【カテゴリー特徴】
Fassbrauseは、果汁やハーブ類のほかにモルトを使用したソフトドリンク飲料です。ほとんどがアルコール度数は0.0%。最もクラシックなFassbrauseとしては、Rixdorfer(Berliner Kindle社)の名が知られています。ドイツ主要ブルワリーが展開する商品群には、レモン、ラズベリー、クロスグリをはじめ、WaldmeisterやHolunderといったハーブ類のほか、コーラ味、マンゴー味までバラエティに富んでおり、容器としては330ml透明リユース壜での流通が一般的です。Fassbrauseカテゴリーの消費者へのアプローチは、“Naturalness”と“Pure of ingredient”を訴求ポイントとしており、ノンアルコール・リフレッシュメント飲料として展開され、学生のような若い世代をターゲットにしているようです。

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*ファスブラウゼ

【香味特徴】
ビール樽(Fass)の香りのする少し甘いサイダーという感じでしょうか、果実・果汁のフレーバーが主に主張し、中味・後味にかけてモルト由来の自然な甘さを感じます。

【略史・概況】
1908年、化学者のLudwig Scholvienが、ビールと同じような色と味の非アルコールビールの代替品として息子に提供するために、ベルリンでFassbrauseを開発しました。オリジナルレシピには、水と麦芽の主成分とともに、ビールの味に近づけることを目的としたリンゴと甘草の天然濃縮物が含まれていたと聞きます。当時ビール樽(Fass)から、びんに詰められたことから、この名がつきました。ベルリンの特産品であり、スポーツモールと呼ばれることもあります。(モールはベルリンの方言で「びんビール」。)
2000年代後半まで、Fassbrause自体は全国的に知名度のあるものではありませんでしたが、2009年に、ケルシュで知られるGaffel社がレモン味のFassbrauseを発売し、商業的に大成功をおさめました。その後、Krombacher, Bitburger, Veltins, Holstenといった大手ブルワリーがFassbrauseの展開を開始、近年では、ブルワリー各社の成長ドライバーとして収益に貢献しています。
 
ビール業界2位のKrombacher社がリリースしたレポートでは、2018年に1.38万kLを販売し、対17年で+20%成長したことが書かれています。Fassbrauseカテゴリー全体としては、30 - 40万kLの市場規模と推察され、日本のノンアルコールビール市場より大きいことに驚かされます。なお、上記レポートによれば、Krombacherは、同ブルワリーの製造量のうち、Fassbrauseを含むノンアルコール飲料の占める割合が既に30%に上り、今後40%まで拡大すると予測しています。漸減するビールの製造・販売量を補うには十分なボリュームです。また、業界4位のVELTINSによれば、このカテゴリーに対して製造から販売までサプライチェーン全体に2.5 million EURを2012年で既に投資しており、各社のこのカテゴリーをある時点で、成長性のある市場とみなし、投資、育成する方向に舵を切ったことがわかります。今では、大手ブルワリーはもちろんのこと、アルトビアやケルシュといった地ビール醸造所からも続々とFassbrauseは登場しており、注目の清涼飲料カテゴリーです。

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*ノンアルコールビール売り場

余談になりますが、ドイツ人は、とにかく炭酸飲料が好きな気がします。炭酸水源が多いことに加え、いわゆる硬水(カルシウム塩とマグネシウム塩の含有量の高い)が多いヨーロッパの水でも、炭酸が加われば口の中がすっきりして、飲みやすいからでしょうか?はたまた選択肢がなくて子供のころから慣れ親しんでいるからでしょうか?ミネラルウォーターでノンガスと記載されていても微炭酸のこともあるぐらいです。レストランで何も言わなければ炭酸水(ガス入り)が運ばれてきますし、スーパーでも並んでいるミネラルウォーターの8割方は炭酸入りで、ガスなしは少数派です。そんなドイツならではの炭酸飲料ですと、リンゴジュースの炭酸水割り・アプフェルショーレ(Apfelschorle)が、スーパー、KIOSKのみならず飲食店でも手に入る国民的飲み物とも言えるのではないでしょうか。レストランに入った際に、メニューを確認してみてください。必ずアプフェルショーレが載っています。アプフェルショーレの多くが50パーセント程度のリンゴ果汁を含んでおり、甘すぎないナチュラルな炭酸飲料のスペックです。他の炭酸飲料に比べて糖分が比較的少ないため、Fassbrause同様、健康志向の炭酸飲料と言えるかもしれません。炭酸水では味気ないし、甘過ぎる炭酸飲料が苦手な人にはぴったりのソフトドリンクです。 

新型コロナウイルス感染症の影響でレストラン向けを中心にビール類の販売が落ち込む中、日独問わず、ブルワリー各社が、成長のポテンシャルの高いノンアルコール飲料に今まで以上に注力しています。今後も新しいカテゴリーが創出するかもしれないので注目です。ただ、我々の事業活動の原点に立ち戻れば、このような環境下にあるからということではなく、アルコールメーカーは、すべての人々が適切な量の範囲内でお酒をたしなんでいただくよう取り組まなければいけない使命があると思っております。アルコールメーカーならではのソフトドリンクの提案もその一部です。コロナで、人と人とのつながりの大切さが再認識されていますが、アルコールは適切に消費されれば人々の絆をつくり、社会関係資本の形成に役立つはずで、だからこそ、皆様には、「スロードリンク」、量をたくさん飲むのではなく、人と語らい、食事とともにスマートに心地よく飲むこれからの飲み方を推奨していきたいと思います。

ドイツのブルワリーが提案するナチュラルヘルシードリンク、Fassbrauseはいかがでしたか?食事のお供に、スポーツの後のリフレッシュに、アルコールが大好きな方も、苦手な方も、ドイツならではの「ノンアルコール麦芽炭酸飲料」Fassbrauseを是非お試しください!


【ワンポイント解説&トリビアコーナー】(生活部ボランティア)

・ブルワリー{Brewery(英)、Brauerei(独)}/ビール醸造所のこと、販売及びパブを兼ねたところもある。
・モルト{Malt(英)}/ビールの味や香りの個性を決める大麦などの麦芽のこと。
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・ビールの原料
①麦芽➜発芽した大麦を乾燥.焙煎させて製造される。乾燥や焙煎の仕方よって様々な種類(色や香り、味の違い)の麦芽が作られる。ビール以外にもウイスキー等のお酒、水あめの原料にもなる。
②ホップ➜アサ科に分類されるつる性多年生草(和名:西洋唐花草)。北緯35〜55度の地域で生産される。ビールの苦味や爽快感を生み出す。更にビールの泡立ちを良くしたり、澄んだものにしたりという役割も果たしている。雑菌の繁殖を抑える貢献もあり!ビール以外では民間薬の材料としても使用される。
③水➜高品質なビール製造には無色、透明、無味、無臭といった条件を満たした清潔で美味しい水が求められる。
④酵母➜原料(上記の①〜③)を混ぜ合わせたものに酵母を加えて発酵させる。酵母は糖分を分解する働きがあり、この働きによってアルコールと炭酸ガスが生まれる。そしてビールにはこの両方が必要。

・ドイツには小規模で地域的なビール醸造所が、アメリカやカナダなどに比して広く各地に存在している…2010年時点で901ヶ所在り、小規模ビール醸造所の1/3を占めるのはおよそ500年に及ぶ伝統を守っており、その大部分はフランケン地方に立地している。