「熊谷徹氏・オンライン講演会」(25.09.2020)
9月25日(金)、元NHK記者で1990年から在独のフリージャーナリストとして活躍、当会議所会報誌の「羅針盤」にもご執筆頂いている熊谷徹氏に「コロナ危機はドイツと欧州をどう変えるか」とのテーマのもと、ご講演頂きました。同氏の講演会は2016年より数えで5回目となりますが、会員企業の皆様に大変好評を頂いており、今回は209名にご参加頂きました。
欧州は中国に次ぐコロナ危機の第二の震源地となりましたが、今春のパンデミックの第1波では、ドイツの死者数はイタリア、スペイン、フランス、英国に比べて大幅に少なく、経済的損害も欧州の中では比較的小さくなっています。何がドイツと他国の間の違いを生んだのか、パンデミックはドイツと欧州をどのように変えていくのか等、パンデミックという百年に一度の異常事態と各国の対応についての分析を1時間半に亘ってお話頂きました。
まず、具体的なデータをもとにドイツとイタリアの感染状況を比較しつつ、イタリアでの感染拡大や医療崩壊の背景について両国の医療体制、年齢構成の違い等をもとにご説明頂きました。一方ドイツでの死亡者数が抑えられた要因として、検査体制の拡充、早期の隔離政策等に加え、ロベルト・コッホ研究所(RKI)が8年前に政府に提出していたパンデミック発生時のシナリオをもとに、州政府の保健省に準備を整えるよう要請していたことが大きいとのことでした。
さらに、なぜ政府が厳しいコロナ政策が必要か、具体的に国民に説明するという、ドイツ政府の対策についての透明性も日本との大きな違いだと指摘されました。RKIの日報では詳細な最新状況が公開され、各病院の集中治療設備や空き状況を確認できるというドイツ独自のシステムについては高く評価されるとのことでした。このようなメルケル政権のコロナ対策は、3月末時点で国民から93パーセントを超える高い支持を得、コロナ危機によりCDUの人気が回復、危機に強い政党であると印象付けました。
講演の後半では、今後の政治、経済への影響、特にデジタル化が進む等、インダストリー4.0との関連についての考察を大変興味深く拝聴しました。また、今後企業は効率性や収益性だけではなく、強靭性(レジレンス)が重要になるという分析をされました。長期的に有効なワクチンが開発されるかどうかについては楽観視できず、人類はまだ数年の間、新型コロナウイルスと共存せざるを得ないと予測され、第二波への危機意識を持つ必要を強く感じました。
講演終了後のQ&Aセッションでは、参加者の方からの多くの質問に丁寧にお答え頂きました。コロナ危機によって大国の指導力の欠如が顕著になり、この危機を利用して自国の価値を他国に押し付けるという動きがある中、地政学的にも影響がでてくるという洞察が大変参考になりました。
リアル開催では人数制限がありご参加頂けない場合もありましたが、今回はオンラインでの開催のためお申し込みの皆様全員のご参加が可能となり、より多くの方にご聴講頂けたことを嬉しく思っております。今後も会員企業の皆様のお役に立つ講演会を企画させて頂きます。