「熊谷徹氏・講演会」(27.09.2019)
9月27日(金)、元NHK記者で、1990年から在独のフリージャーナリストとして活躍、当会議所会報誌の「羅針盤」にもご執筆頂いている熊谷徹氏に講演頂きました。本講演会は2016年より毎年開催しており、会員企業の皆様に大変好評を頂いております。今回は90名近くのお申込みを頂戴し、76名にご参加頂きました。
今回の講演会では、「脱原子力に続き脱石炭をめざす“ものづくり大国ドイツ”の行方は?エネルギー転換が経済に及ぼす影響は?」と題し、ドイツのエネルギー転換の現状を解説頂き、また特に、脱原子力政策、脱石炭政策、再生エネルギーの急拡大の3つの転換がドイツ社会・経済に及ぼす影響等についてご説明頂きました。
2000年のシュレーダー政権による脱原子力合意に始まり、メルケル政権は2022年末までに原子力発電の全廃と2038年末までに褐炭・石炭火力発電所の全廃を決定し、電力業界は大変革期の中にあります。買収、大再編のあった電力大手2社は互いの事業交換計画を打ち出し、エーオンは配電事業と小売りに特化、RWEは再生エネルギー発電事業者として利益の半分を再エネによって生むことを目指しています。
また、ものづくり大国ドイツが、再エネ比率80%を達成した時に、電力の安定供給を確保できるかどうかが、重要な焦点であり、南北を結ぶ高圧送電線の早期建設などの対策が重要になるものの、送電線の通り道となる地域住民の反対で遅れているとのご説明でした。
一方、エネルギー転換は電力業界の新しいビジネスモデル構築をもたらしただけでなく、保険金融業界でも動きが出てきています。欧州最大手アリアンツ保険は、石炭・褐炭火力発電所や炭鉱に対する個別保険の販売を停止し、2024年までに保険ポートフォリオの中から、石炭・褐炭リスクをなくすとの目標を掲げました。同様の脱石炭の方針宣言が他保険会社や銀行からも挙がっています。
こうした中、若者たちを中心に環境問題、地球温暖化対策への関心が高まっており、2019年5月の欧州議会選挙では緑の党が大躍進を遂げました。9月20日に政府から骨子が発表された「2030気候保護パッケージ」では建物・交通に係るCO2 排出権取引をEUに先がけてドイツで導入することが盛り込まれましたが、緑の党からはまだ不十分であると批判されているとのことで、今後同党が国のエネルギー政策により大きな影響力を行使していく可能性が指摘されました。
講演終了後の質疑応答では、参加者の方からのご質問に丁寧にお答え頂きました。日本とは異なり環境問題がドイツ政治の今後の動向を占う上で、大きなウエイトを占めていることが理解でき、大変参考となりました。
今後も会員企業の皆様のお役に立つ講演会を企画させて頂きたいと思っております。
講演会の様子 ©JIHK
熊谷 徹氏 ©JIHK