ベルリン・フィルの魅力

中村真人(フリージャーナリスト/在ベルリン)

今年10月、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の本拠地「ベルリン・フィルハーモニー」が完成から50年を迎えた。少々ややこしいが、50周年を迎えたのはベルリン・フィルBerliner Philharmonikerではなく(こちらの創設は1882年にさかのぼる)、彼らが本拠地とするホールBerliner Philharmonieの方である。ベルリンの人は単に「フィルハーモニー」と呼ぶことが多い。

ベルリン・フィルの元々の本拠地だった旧フィルハーモニーは、第二次世界大戦中の空爆により、わずか一夜で瓦礫の山と化した。戦後、建築家ハンス・シャロウンの設計により建てられたのが現在のフィルハーモニーである。当時の芸術監督カラヤンの指揮によってベートーヴェンの「第9」がオープニングに演奏されたのは1963年10月。そのすぐ近くのポツダム広場に、ベルリンの壁が建設されてまだ2年後のことだった。サーカス小屋を思わせる黄色い外観は、今日の目で見ても斬新極まりない。このホールの最大の特徴は、それまでのコンサートホールのように、舞台と客席が向かい合うのではなく、舞台を客席が囲む構造になっていることだ。客席数2440の大きなホールでありながら、どこの席に座っても、舞台との距離がそれほど遠くなく、視覚的な面白さと臨場感を味わえる。もちろん響きのよさも折り紙付き。それぞれのブロックのまとまりがブドウ畑を思わせることからヴィンヤード形式と呼ばれるフィルハーモニーは、東京のサントリーホールを始め世界中のホールに影響を与えることとなった。
ベルリン・フィルはリハーサルから本番まで、この広々とした空間を持つフィルハーモニーで行うことができる。ベルリン・フィルの潤沢なサウンドはこのホールと共に熟成されてきたと言っても過言ではない。

ベルリンという都市の国際的な性格を反映して、ベルリン・フィルには世界中からの腕利きが集まっている。その中には樫本大進(第1コンサートマスター)、エマニュエル・パユ(ソロ・フルート)、シュテファン・ドール(ソロ・ホルン)など、ソリストとして独立できる実力派のプレーヤーも数多い。もっとも、単に「うまい」奏者だけを集めても聴き手の心をとらえるとは限らないのが、繊細で高度な総合芸術であるオーケストラというものだ。ところが、ベルリン・フィルの場合、個々の自己主張と合奏の一体性とが、極めて高い次元で両立している。それがこのオーケストラのすごいところ。息を飲むような繊細なピアニッシモからホールを揺るがす大音量まで、自由自在なダイナミックレンジが生まれるのは、彼らがまるで室内楽をやるようにお互いをよく聴き合っているからに他ならない(実際、ベルリン・フィルのメンバーは室内楽の活動も大事にしている)。普通はヴァイオリンの影に隠れがちな中低音のヴィオラやチェロの雄弁さ。単純なロングトーンでも聴き手を感動させてしまう木管楽器の濃い響き。輝かしく、時に荘厳な金管楽器のアンサンブル…。そんな彼らがノリに乗ったとき、音楽は火を噴くようにうねり高まる!
この達人たちを束ねるのが、英国人指揮者のサー・サイモン・ラトルである。クラウディア・アバドの後任として芸術監督に就任して早14シーズン目。オーケストラのレパートリーを拡大し、また「音楽は全ての人に届けられるべき」という理念のもと、革新的な教育プログラムを実行してきたラトルだが、2018年での退任を決めている。ラトル時代の終わりが視野に入ったいま、彼らの演奏は一層の円熟味を見せるのではないだろうか。

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フィルハーモニー50周年を記念して行われた10月のコンサートより
© Monika Rittershaus
来年2月の「ベルリン・フィルを聞こう!」企画では、内田光子の独奏によるモーツァルトのピアノ協奏曲と、ラトルがもっとも得意とするレパートリーの一つであるハイドンの作品が演奏される。特に後者では、ラトルならではのユーモアがホールを満たすことになるだろう。

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その斬新な外観から「カラヤンのサーカス小屋」の異名を持つ